導入|10年つけて気づいた「心の家計簿」
私、かれこれ10年来家計簿をつけています。かなり真面目につけていて、ここまで来るとつけていないと、何にお金を使ったか不安になるレベルです。
そんな中、「お、今月はこの臨時収入があったから、先月買った家電の分埋め合わせできるな」とか、「この利益確定した分のお金で携帯でも買い替えるか」なんていって、頭の体操みたいなことを散々やってます。これが今回の題材です。
お金を、心の中で仕分けて扱い、都合よく期間を区切って考えて、それにより行動が変わる。
行動経済学でいう「メンタルアカウンティング」。人はお金を“合理的”ではなく、“感情的”に管理しているんですね。
この記事でわかること
- メンタルアカウンティングの意味:セイラーの定義と3つの構成要素
- 第1要素:お金をどう評価し、どう行動と感情に影響するか
- 第2要素:お金の心の中での色分けグセ
- 第3要素:期間でお金を区切るクセ
- ヒューマンモードとエコノモードを使い分ける”ハイブリッド理論”
- 今日からできる実践法:自覚的にメンタルアカウンティングを活用し幸福度を上げる方法
メンタルアカウンティングとは?セイラーの定義と3つの構成要素
一般にメンタルアカウンティングでGoogle 検索すると、主な説明は「お金を心の中でラベル付けする心理」と説明がされています。正しい考えではありますが、説明不足でもあります。
メンタルアカウンティングを提唱したのは、ノーベル賞も受賞したリチャード・セイラー。彼は1999年の論文「Mental Accounting Matters」で以下のように定義しています
“Mental accounting is the set of cognitive operations used by individuals and households to organize, evaluate, and keep track of financial activities.”
(メンタルアカウンティングとは、個人や世帯が自らの経済活動を整理・評価・記録するために用いる一連の認知的操作のことである)
さらにその構成要素を3つに分類しています。それぞれの要素を具体例を提示しながら見ていきましょう
第1要素|結果の知覚と経験(How outcomes are perceived and experienced)
同じ出来事でも「どう感じるか」「どう経験するか」によって、その後の判断と行動が変わる現象を指します。
たとえば同じものでも「もらい物か、自分で買ったものか」「どこで買ったものか」によって、人の行動や感じ方が変わります。代表例を見ると理解が深まるので、早速見ていきましょう。
セイラー教授のバスケットボール観戦
カーネマンも著書で「メンタルアカウンティングをよく表している例」と評した、セイラーの「雪の日のバスケットボール」を紹介しましょう。
バスケットボールの試合のチケットがあります。Aは自分のお金で前売り券を購入しました。Bはただでチケットを譲ってもらいました。なんと試合当日は吹雪でした。試合会場は70km離れた場所で、車で行く必要があります。 吹雪を押して観戦に向かうのはAとBのどちらでしょう?
答えはご想像の通りAです。メンタルアカウンティングはお金以外にも働きます。今回は前売り券チケットです。
Aは悪天候でも「もったいない」と出かけてしまう。一方、チケットをタダでもらったBは行きません。同じ前売り券を持っているという状況は変わらないのに、入手経路によって捉え方が変わってしまうのです。一方は「もったいない」と感じ、もう一方は「自分の懐が痛んでいないから、まあいいか」となる。
せっかく自腹でチケット手に入れたのに、見なきゃもったいないやん。俺なら行くで、吹雪でも!
ふーん。気を付けてな。でもそれがただで貰ったものやったらどうする?
そんなら行かん!だって吹雪の運転なんて危ないやん!
思いっきり行動変わっとるやん!チケットを持ってるという点では違いはあらへん。違いは手に入れた方法だけや。後者は自分の財布が痛んでへんから、諦めるハードルが低いんや。
ビーチで飲むビール
こちらは「取引効用(Transaction Utility)」と呼ばれる効果についてです。ものの価値だけでなく「良い取引をした」という満足感も重要な役割を果たすことを示しています。論文で紹介されている例を少しわかりやすく脚色して見ていきましょう。
あなたはビーチで横になっています。友人が「このあたりでビールが売られている①高級ホテルまたは②ドラッグストアで買ってくるよ」と言っています。「君の言い値以下なら買ってくるね」とのこと。あなたは①、②でそれぞれどの金額を友人に伝えますか?同じ銘柄の同じ缶ビールとしましょう。
おそらく多くの人は、①高級ホテルのほうが高い金額を伝えるのではないでしょうか。ホテルで500円/本のビールなら満足できるけど、ドラッグストアで500円/本ならボッタクリだと感じる。でも待ってください。ビーチでビールを飲むという効用は、どちらのビールでも変わらないはず。それなら同じ金額を伝えるのが経済合理的には正しいはずですが、買ってくる場所によって感じ方が変わってしまうわけです。
そんな事言われてもなー。ドラッグストアで買った500円のビールじゃ、なんか喜び半減してしまいそうや。
ほんなら友人がホテルで買ってきたでー(実際はドラッグストアで買った)って持ってきたらどうする?
それなら満足や!!
どっちも飲んでるビール、変わらんで?なんで言葉一つで満足変わっとるんや?それがメンタルアカウンティングが満足に与える影響ってやつやな。
第2要素|勘定への割り当て=お金のラベル付け(Assignment of activities to specific accounts)
これはお金の「色分けグセ」。これはメンタルアカウンティングの中でも最も有名な部分です。私たちは財布の中身は一つでも、心の中では何種類もの”仮想財布”を持っているんです。
その財布ごとにルールが違う。つまり「同じ1万円でも、どの財布から出すかで価値が変わる」——これが第2要素です。
出自による色分け:あぶく銭はパーッと使う
たとえば、ギャンブルや宝くじで入った”あぶく銭”は「苦労せず入ったお金」と感じるため、つい気が大きくなる。一方、汗水流して稼いだお金は「これは大事に使わなあかん」と慎重になる。
これはハウスマネー効果(House Money Effect)と呼ばれるもので、お金の出どころによって「使い方」変わってしまう例です。ハウスマネーとはカジノの賭け金を指します。
予算による色分け:生活費・娯楽費・貯金を分ける
また、家計では「生活費」「娯楽費」「貯金」といったカテゴリーで管理します。財布がひとつでも、心の中では”用途別口座”を持っているわけですね。
だから「今月の被服費はもうないから服は買えない、でも食費は余裕があるからちょっと良い外食に行こう」といったことが起きるわけです。この心理的予算づけは、実際には同じお金なのに、ラベル付けで別物として扱っています。
その他の具体例
- 子どものお年玉・お祝い:絶対不可侵領域。減らしてはいけないと思い込んで普通預金へ。でもインフレで目減りする。これは別記事で解説しているためこちらへ。
- リボ+普通預金:クレジットカードのリボ払い残高(金利18%など)があるにもかかわらず、普通預金(金利0.1%以下)に置いておく。預金を返済に回すほうが合理的。
- 年末調整還付金:臨時収入でパーッと使う。でも理屈ではもともと自分のお金。払いすぎた税金の還付だもの。
おいおい、ほとんど当てはまるぞ。年末調整なんてまさにそれを当てにしてるわ。良いことも悪いこともありそうな心理効果やん。
せやで。予算の色分けなんて使いすぎ防止にはええと思うで。俺みたいな合理的経済人はお金に色をつけへんけど、人は色分けすることで有効にお金を使えることもあるんや。リボ併用とかは明らかに悪いメンタルアカウンティングやけど、良い点はどんどん取り入れたらええ。
第3要素|評価頻度と選択の括り方(Frequency & choice bracketing)
ここでのキーワードは評価頻度(frequency)と選択の括り方(choice bracketing)。つまり「いつ心の中の帳簿を締めるか」という話です。そして、その括り方は結構恣意的なんです。
年度決算や月ごとの家計簿。本来、こうした区切り方は不合理です。31日が1日になっただけで、お金の価値が変わるわけではありません。
他にも「月の予算ではオーバーだけど、過去12ヶ月で見たら予算内だから使ってOK」とか、その逆もやったりします。
ギャンブルでも「昨日は負けが込んだけど、今日はリセット」なんてよく聞く話です。
でもこの都合のいいリセットは決して悪ではありません。企業決算では期間を区切るのは当然ですし、一般人だって月次や週次の家計簿をつけることで家計管理がうまくいくこともあります。
合理的経済人なら不合理な括り方はしません。けれど人間は「年・月・週」とか「昨日・今日」といった括りを設けるわけです。
良い意味でも悪い意味でも、「都合のいいリセット」が第3要素のエッセンスです。
今日は31日。食費使い切ってもうたから、今日一日は家にあった食パンかじって頑張るわ。
おお、節約精神素晴らしいな。人間らしくてええで!
そして次の日
よっしゃ家計簿リセット、食費も復活!ラーメン全部のせで食いに行くわ。奢るから来るか?
なんで1日経過しただけで、節約精神吹っ飛ぶんや。典型的な心に区切りを設けている例やんけ。
ハイブリッド理論|都合よくメンタルアカウンティングを利用する
ここまで、メンタルアカウンティングの良い面も悪い面も書いてきましたが、個人的にはこれは優れた傾向だと思うんです。だって考えてみてください。
もし全てのお金を「ただのお金」として扱ったら?
- 子どもへのお祝い=ただの臨時収入。子どものために使ったほうが心の満足度は高いでしょ。
- ボーナスをもらっても嬉しくない。パーッと使ったって良いじゃない。
- 頑張って貯めた10万円も、もらった10万円も同じ。
これじゃ人生、味気ないですよね。確かにお金を合理的に動かしているという点では優れていますが、人間味が全く感じられない。お金なんてただの手段です。そこからどうやって喜びや満足を引き出すかがポイント。
だから私は「ハイブリッド理論」を推します。必要な時は合理的に(=エコノモード)、楽しむ時は感情的に(=ヒューマンモード)。
上手に切り替えて生きればいいんです。
賢いメンタルアカウンティングの例
- ボーナス:自分と家族にプレゼントを
- 臨時収入:家族といつも行けないお店でディナー
- 副業収入:「なかったものとして」将来の楽しみ用に取っておく
- ポイント:「おまけ」と割り切って普段買わない贅沢品を
- 子どものお金:子どもの夢や希望を叶えるために
- 家計簿:月や週で予算管理
大事なのは「これはメンタルアカウンティングだけど、あえてやってる」と自覚しておくこと。それさえ守ればメンタルアカウンティングはあなたの人生を彩るスパイスになると思います。
人生のスパイスラーメン
また来たな、今月3回目のラーメンやぞ。どんだけ今月付き合うんや。
ボーナス月やから、ラーメン予算は別枠やろ。こんな時じゃなきゃこんなに食えへん。
出たな、メンタルアカウンティング。お金に色はないで?
ええやんけ。普段は『ラーメン800円は高い』って我慢してるけど、ボーナス出たら『800円くらい』って思える。この心理、大事やと思うで。俺はこの心理でラーメンの味、変わると思う。
まとめ|メンタルアカウンティングと上手に付き合う
- どう感じ、どう経験するか(知覚)
それによって行動や満足感が変わる - どの勘定科目に入れるか(分類)
お金にラベルを貼ることで使い方が変わる - いつ帳簿を締めるか(区切り)
区切りを設けて感情を整理している - ハイブリッド理論
メンタルアカウンティングは悪ではない。必要なときは合理的に、楽しむときは感情的に - 活用のコツ
「自分はメンタルアカウンティングを使っている」と自覚することで、不合理な行動を「人生を豊かにするスパイス」に変えよう
メンタルアカウンティングは確かに不合理です。でも、それが人間らしさでもあります。
セイラー先生が教えてくれたのは「人間は不合理」という事実。でも、その不合理さこそが私たちの人生を彩っているんじゃないでしょうか。だから今日も堂々と宣言しましょう。
「ボーナスは別腹です!」
参考文献
- Thaler, R. H. (1999). Mental Accounting Matters. Journal of Behavioral Decision Making, 12(3), 183–206. (メンタルアカウンティング定義と3要素を提示した論文)





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