平均回帰の意味と定義(辞書的解説)
- 平均回帰(Mean Reversion / ミーンリバージョンす)とは、極端な値が時間の経過とともに平均値に近づいていく現象を指します。
この概念を最初に示したのは19世紀の統計学者フランシス・ゴルトン。
例えば背の高い親の子どもは平均すると親より低く、背の低い親の子どもは逆に高くなる──つまり「極端」は次世代で薄まり、平均に戻るのです。
さらに心理学者ダニエル・カーネマンは、イスラエル空軍の指導現場における”平均回帰の誤解”を紹介しています。
日常でわかる平均回帰|ラーメン屋と子どものテスト
行列ラーメン屋のブームと収束
駅前に新しいラーメン屋がオープンしたとしましょう!えっらい美味しいと口コミで評判とします。
- 開店直後:1時間待ち
- 1ヶ月後:30分待ち
- 3ヶ月後:10分待ち
- 6ヶ月後:近所の店と同じくらい
結局、味・立地・価格といった「実力」に客入りは収束していきます。これが平均回帰。
一時的なブームが消えた後に、本当の実力=平均値が見えてくるのです。
さらにラーメンは価格でも平均回帰が働きます。
- 1杯2000円の超高級ラーメン → 話題性はあるが、長期的には固定客しか残らない
- 1杯300円の激安ラーメン → 一時的に人気でも、原価や品質の壁で持続しにくい
最終的には、多くの店が700〜900円前後の「普通の価格帯」に落ち着くでしょう。
これもまた、市場全体で働く平均回帰の一例なのです。
子どものテスト点数の推移
- 100点!「天才かも」
- 75点…「あれ?」
- 85点「まあまあ」
- 80点「安定」
- 90点「いい感じ」
- 85点「これくらいかな」
平均すると約86点。これがその子の実力値。
100点は上振れ、75点は下振れ。どちらも一時的で、結局は平均に戻る。
親としては「この86点をどう積み上げて90点ラインに平均をシフトさせるか」を意識するのがポイントですね。
平均の推移を理解する|移動平均という考え方
日々の変動に一喜一憂せず、全体の流れを掴むには移動平均が役立ちます。移動平均とは過去一定期間の平均値を区間をずらしながら計算し、長期的な傾向を把握する手法ですね。
1日ごとの増減を気にするより、過去7日間の平均値を記録してグラフで見れば、ゆるやかな傾向が分かる。 売上など日々の「ノイズ」が多い領域では、本質的なトレンドを見るのに移動平均は非常に有効ですね。
平均回帰を生む5つの力(辞書的整理)
- 競争の力 流行したタピオカ店に参入が殺到 → 価格競争 → 平均的な水準へ。
- 持続可能性の壁 ダイエット極端な食事制限や運動は長続きせず、結局リバウンド。受験勉強などもそうかも。日に12時間勉強、短期ならともかく長期はね。
- 慣れ(限界効用逓減) 新作ゲームは最初の10時間は超楽しい。でも100時間目は?スルメゲームみたいものもあるけれども、一般には最初の感動は薄れる。 経済学では「同じものから得られる満足度は、だんだん減っていく」と説明します。 これを限界効用逓減と呼びます。 1個目のケーキは最高!でも5個目のケーキは「もういいかな」となるわけです。
- ランダム性の収束(大数の法則) オンラインゲームのガチャでSSR連発しても、回数を重ねれば確率通りに落ち着く。
コイン投げで見る平均回帰
10回投げたら表が8回!「このコイン、表が出やすい?」
でも1000回投げれば、表約500回・裏約500回。
最初の偏りも、回数を重ねると確率通りに収束します。
ここで重要なのは「次は裏が出やすい」ではなく、全体として見れば50:50に近づくということ。
短期的な幸運も不運も、長期的には「普通」に戻っていくんです。
カーネマンが解いた誤解|叱ると伸びるは錯覚?
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』の中で、パイロットの訓練の有名な逸話を紹介しています。
あるとき教官がこう主張しました。
「褒めると次は下手になる、叱ると次は上手くなる。だから叱る方が正しい」
カーネマンは即答。
「それはただの平均回帰です」
- 特別に良い成績 → 褒めても次は普通に戻る
- 特別に悪い成績 → 叱っても次は普通に戻る
教官は自分の指導力と勘違いしていただけだったのです。
これは当初読んだときには目から鱗が落ちました。私も子育てに応用させてもらってます。
褒める意味は「自己肯定感や学習意欲を育てて、平均点そのものを上げること」にあります。逆に叱る意味も「ピットフォールなどを指摘して、平均点を上げること」
両者目的は一緒です。短期的な結果に満足せず、対象の「平均値」を見てあげればいいということですね。親の観察眼が問われます。
平均値が異常値|イチローの場合
本記事を書きながら日本プロ野球時代のイチロー選手を私は思い出していました。
普通なら打率.380打った翌年は.280に落ちる。
でもイチローは.340。なぜ?
答え:イチローの平均がそもそも打率.360前後。
不調の年でも首位打者という、もはや平均回帰のバグか?と思いたくなりますが、平均回帰です!
上振れも下振れもあるけれど、回帰先が常人離れしてただけなんです。
打率.340で「今年は調子悪い」と言われるのは、平均が高すぎるがゆえの現象でした。
つまり平均回帰の法則を超越したわけではなく、「普通」が異常に高かっただけなのです。
ヒューマンさん×エコノさん劇場
ヒューマンさん:「駅前のラーメン屋、行列なくなったな」
エコノさん:「味が落ちたんやなくて平均回帰や。『新しさ』は必ず消える。残るのは『実力』だけや」
ヒューマンさん:「子どもが100点取ったのに次は75点…褒めすぎた?」
エコノさん:「カーネマン案件や。平均に戻っただけや」
ヒューマンさん:「じゃあイチローは?」
エコノさん:「あれは平均が異常に高かったんや」
ゲーセンで見る平均回帰|関連記事とのつながり
前回のゲーセン経済記事で「取れやすい店の都市伝説」について触れました。「新規オープンは取れやすい」という噂、これもまさに平均回帰。
- オープン直後:設定甘い → SNSや口コミ拡散 → 客殺到
- 1ヶ月後:客単価下がる → 利益圧迫 → 設定調整開始
- 3ヶ月後:普通の店と同じ設定に収束
極端な「取れやすさ」も、時間が経てば普通に戻るんです。
今日から使える平均回帰の知恵
- 習い事の上達:スランプも好調も一時的と理解する。淡々と練習!
- ゲーセン:「取れやすい」に踊らされない
- 新店の行列:数ヶ月も待てば並ばずに入れる
まとめ|平均回帰は残酷で優しい
平均回帰はこう教えてくれます。
- 特別は続かない
- 奇跡もいずれ普通に戻る
- でも失敗もまた普通に戻る
だから大事なのは一喜一憂しないこと。
「自分の普通」を少しずつ上げること。
浮かれず、落ち込まず、淡々と。これが行動経済学が示す最も確実な成長戦略です。
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