公園に行く前の「荷物問題」はなぜ起こる?
子どもと公園に行く準備をしていると、毎回のように始まるやり取りがあります。
「これも持っていく!」「あれも必要!」
気づけば玄関にはストライダー、ボール、虫取り網、バドミントン…。
小旅行かと思うほどの荷物が山積みです。
親はため息まじりに「本当に全部いる?」と聞いても、返ってくるのは断固たるひと言。
「絶対に必要!」
なぜ子どもは荷物を増やしたがるのか?
そしてなぜ親は「またか…」と疲れてしまうのか?
実はこのやり取りの裏側に、行動経済学の代表的な心理──損失回避が潜んでいるのです。
【理論編】子どもの荷物と損失回避の心理
損失回避とは?行動経済学の基本
損失回避(Loss Aversion)とは、人は「得をする喜び」よりも「損をする痛み」を強く感じる心理を指します。
1000円を得たときの嬉しさより、1000円を失ったときのショックの方が大きい。
人間は「得たい」以上に「失いたくない」で動く生き物なのです。
この原理を当てはめると、子どもの「荷物持っていく!」という主張がぐっと理解しやすくなります。
子どもにとっての最大の損失は「遊びを逃すこと」
ある日、公園に虫取り網と虫かごを持たずに行ったときのこと。
たまたま子どもの友達達が楽しそうに虫取りをしていました。
「自分もやりたい!」と訴えるわが子。
でも道具がない。結局ただ後ろで眺めるしかなく、とても悔しそうでした。
その経験以来、「公園に行くなら虫取り網持った?」と必ず確認するように。
つまり子どもにとって最大の損失は、「遊びに参加できないこと」。
その痛みを二度と味わいたくないからこそ、荷物を増やしてでも持っていこうとするのです。
親子で違う損失回避の基準
一方で、親にとって最大の損失は「荷物で体力を消耗すること」。
- 子ども → 楽しみを逃すことが一番の損失
- 親 → 重い荷物で疲れることが一番の損失
同じ損失回避でも、守ろうとする対象が真逆なのです。
だから「持っていく」「やめとこう」で毎回ぶつかるのは必然。
親が「重いの持つのはパパやで?」と訴えても、子どもの優先順位では下の方。
子どもにしてみれば、
「パパが重いとか知らん!遊べなかったほうがよっぽど損やん?」
くらいの感覚です。
これは児童心理学者ピアジェのいう「自己中心性」の段階そのもの。
子どもは自分の視点が世界の中心なので、他人の都合は考慮に入りません。
──つまり「パパは筋トレ担当でよろしく!」は、実は学術的にも正しい主張なのです(笑)。
【実践編】公園荷物問題の解決策4選
1. 「持つなら自分で持つ」ルール
持ちたいものがあるなら、自分で運ぶことを条件に。
軽いタオルや砂場セットから始めれば、「荷物が多いと大変だ」という体験ができます。
2. あえて断る勇気
「持って!」と泣きつかれても、あえて断る場面を作る。
自分で抱える苦労を知れば、次回のリストは自然に減るかもしれません。
(もちろん体力や年齢に応じた加減は必要ですが)
3. 現地調達で「損失感」を薄める
公園には松ぼっくりやどんぐり、木の枝など、自然のおもちゃが豊富。
現地で夢中になれば、「持ってこなかった損失」は意外と感じません。
4. 親の合理的投資
結局担ぐことが多いなら、軽量モデルのストライダーを選ぶのもいいかも。うちは重たいの買ってしまったけれども、
「子どものため」ではなく「親の体力を守るため」の投資もありだと思います。
ストライダーを抱えて1時間歩いた経験のある親御さんなら、わかってくれるはず。
親のリアルな心の声〜損失回避の裏側〜
子どもの「損失回避」に付き合う親にも、実は複雑な心理があります。
「また荷物増やすの…」と思いながらも、心のどこかで
「まあ、楽しそうに遊んでくれたらいいか」と考えてしまう。これも実は親自身の損失回避です。
- 子どもが「持ってくればよかった」と泣く姿を見たくない
- せっかくの休日を台無しにしたくない
だから結局「はいはい、持っていこうね」と折れてしまう。
でも冷静に考えると、
ストライダー担いで1時間歩くのと、子どもがちょっとグズるのと、
どっちが損失大きいんでしょうね?
「子どもの笑顔はプライスレス」──そう自分に言い聞かせながら、今日もストライダーを担ぐパパなのでした。
年齢で変わる「失いたくないもの」
子どもの年齢によって「避けたい損失」も変わります。
- 3〜4歳:所有欲の芽生え期 「MY虫取り網」「MYボール」を持つことで安心感。荷物は「自分の装備」。
- 5〜6歳:社会性の発達期 仲間に入れないことが最大の損失。「みんな持ってるから」が理由になる。
- 7〜8歳:効率を考え始める時期 「重い」「邪魔」と感じ始めるが、「念のため」精神はまだ健在。 ただし「自分で持つ約束」をすると急に荷物が減る(笑)。
これ思い返すと、「わかる!」って人多くありません?2歳児くらいでは同じおもちゃでも、「これは違う!」って言いますよね。
この変化を知っていると、「今はこういう時期なんだな」と少し優しい目で見られるかもしれません。
大人も同じ?損失回避の「荷物癖」
子どもだけでなく、大人も似たような行動をしています。
- 使わない折り畳み傘を一日中持ち歩く
- 結局使わないモバイルバッテリー
- 2年着ていない服を「いつか着るかも」と残す
- 期限切れのポイントカードを財布に入れっぱなし
どれも「なかったら困るかも」という損失回避の心理。
……どうですか?ひとつくらい心当たり、ありますよね?
ギクッとした方は、ストライダー担いで筋トレしておきましょう(笑)。
まとめ:公園は損失回避を学ぶ実験場
公園の荷物問題は、単なる親子ゲンカではありません。
そこには「失いたくないもの」をめぐる価値観の違いがはっきりと表れています。
- 子どもは「楽しみを逃す損失」を避けたい
- 親は「体力を消耗する損失」を避けたい
同じ損失回避でも、守っているものが違うからこそ衝突する。
でもその違いを知れば、歩み寄りのヒントにもなります。
次回公園に行くとき、子どもの「持っていきたい!」に耳を傾けてみてください。
子どもが守ろうとしている楽しみが見えてくるはずです。
そして気づくでしょう。
不合理なのは子どもだけでなく、大人も同じだと。
おまけ:やっぱり不合理な子ども
先日の公園に行く際、子どもに聞きました。
「ストライダー持っていく?」
返ってきた答えは──
「今日は疲れてるからいらん!」
……やっぱり予想以上に不合理でした。




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