はじめに|意志が弱いんじゃなく、設計が足りないだけ
ダイエットを始めても三日坊主。勉強しようと思っても、なぜか続かない。今日はビールは1本だけのつもりだったのに、結局2本目のプシュッ。
──そんな自分にガッカリしたこと、ありませんか?
でもそれ、性格の問題じゃありません。人間の脳はそもそも「楽なほうに流れる」ようにできているんです。だから、やる気が続かないのは脳の仕様。気合いや根性でどうにかしようとするほど、消耗していく。
必要なのは「頑張る力」じゃなく、頑張らなくても動ける仕組みを設計する力。
この記事では、行動経済学の考え方をもとに、意志に頼らず続けられる仕組み”自己ナッジ”を紹介します。
この記事でわかること
- 意志力よりも環境設計で動く「自己ナッジ」の考え方
- ボールペン芯・アプリ沈め・ビール1本など実践例
- 今日から始められる”続ける仕組み”の作り方
自己ナッジとは?|意志に頼らず行動を設計する技術
ナッジとは、人の行動を“そっと後押しする仕組み”のこと。行動経済学者リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンが提唱しました。たとえば、
- エスカレーター横にピアノ階段を設けて階段利用を促す
- 食堂でサラダを取りやすい位置に置く
つまり、自由を奪わずに望ましい行動を選ばせる仕組みをいいます。
今回扱う「自己ナッジ」は、そのナッジを自分自身に使う方法。根性論や意志力に頼らず、環境や仕組みを変えて“自然と続く行動”を作る考え方です。フィードバック、可視化、コミットメント装置など──それらすべてが自己ナッジの仲間。
要するに、未来の自分は信頼できない。「明日こそやる」と言いながら、たいてい裏切ります。だからこそ、今の自分が“裏切られない仕組み”を作っておく。これが、自己ナッジの出発点です。
フィードバックナッジ|ボールペン芯に目盛り
これは、私が受験勉強のときに実際にやっていた方法です。新しいボールペンを買ってきたら、まずインク芯に6本の線を引く。つまり、インクを1週間で使い切る想定で7等分。
1日目は1メモリ、2日目は2メモリ──毎日必ず“1メモリ分”だけインクを減らす。
翌日遊びたい時は、前日に“2メモリ”進めておく。テスト前は7等分を6等分、5等分にしてペースを上げる。線を引くだけで、努力が見える化されるわけです。
勉強時間で管理すると“濃淡”が出るし、ページ数でも難易度で差がつく。でも、ボールペンのインクの減りだけはウソをつかない。だから途中でペンが詰まったらブチ切れてました(笑)
「おい、今日はここまでやるって決めてたんや!」って。
でもそれくらい、仕組みへの信頼があったんでしょうね。インクが減る=努力の証拠。行動の証拠が、感情の報酬になる。これはまさに自己ナッジの原型だったと思います。
隠すナッジ|スマホアプリを奥深く沈める
誘惑を遠ざける王道ナッジ。誰でも今日からできる“軽ナッジ”です。
- ゲームアプリやSNSアプリをフォルダの奥の奥に沈める
- クレジットカードを財布から抜き、別の引き出しにしまう
人は視界に入るものに弱い。「見える=今すぐできる」と錯覚してしまうんです。通知バッジが赤く光れば、脳は「押して!」と命令してくる。
だからこそ、見えない場所に沈めるだけで衝動の起動を防げる。実際にやってみて下さい。フォルダを押して押してとやるくらいなら、もういいやという気分になります。
恐らくですが、スマホのトップ画面においてあると、下手すると無意識に指が伸びていませんか?もはやアプリを探すというより、体が覚えているような状態になっている人いますよね?
隠すナッジは、この無意識に一石を投じる意味もあります。誘惑を遠ざけ、理性を挟む時間を少しだけでも取るだけで、自己制御は驚くほど楽になります。
ビール1本ナッジ|限界効用を環境で強制する
次は今も実践中のナッジを紹介しましょう。冷蔵庫にはビールを1本だけ冷やす。2本目以降は常温のままにしておくのです。
- 1本目:キンキンで最高
- 2本目:冷えていない→飲む気が失せる
「もう1本だけ…」と手を伸ばすその瞬間。あれがまさに、限界効用逓減性との闘い。私の場合は、おいしさは最初がピーク。2本目、3本目になるほど満足度は下がる。でも人はそれを自覚できず、惰性で“もう1本”を開けてしまう。だから冷蔵庫に1本しか冷やさない。2本目は常温=環境的ブレーキ。
冷却の「待ち時間」が、衝動と理性の間にワンクッションを置いてくれる。意志力じゃなく、ビールの温度があなたを導いてくれる。限界効用逓減を頭で知るのではなく、冷蔵庫で感じるわけです。
冷えたビールが好きな私にとって、ぬるいビールを飲む価値は多分1本目キンキンと比較して満足度9割減くらいです。”だったらいいか”と自分を納得させる仕組みを仕込んでおくわけですね。これが、自己ナッジの真骨頂です。
反インセンティブナッジ|最終兵器としての「嫌な寄付」
普通のご褒美より強烈に効くのが反インセンティブ。「目標を達成できなかったら、大嫌いな団体に寄付」。
- 阪神ファン→巨人に寄付
- 特定政党が嫌い→その政党に献金
- ライバル企業の商品を買う羽目
人は「得る喜び」より失う痛みに敏感であるとされています。損失回避バイアスを参照。“死んでも嫌”を最強の動機として利用するわけです。
実行の仕組み
でここまでを言うだけでは、どうせ「まあいっか」になる。冒頭に申し上げた通り、人間は楽な方に流れるわけです。自己ナッジの仕組み作りで人間の弱みに負けてはいけない。だからこそ、逃げ道を断つ仕組みを作っておきましょう。
- 信頼できる人にお金を預ける
- 「失敗したら寄付して」と依頼する
- 自分では取り消せない状態にする
未来の自分は自分を裏切ります。だからこそ、自己統制の外部化が有効です。
ただし結構劇薬です。ご利用はここぞというときのとっておきとしておくことがよろしいかと。
ネタ枠|物理ナッジの究極系「クレカ氷漬け」
これはネタ枠ですが、アメリカではクレジットカードによる衝動買いの対策として、クレジットカードを冷凍庫で凍らせる人がいたそうです。
これネタ枠ではありますが、物理で対処する究極系だと思いました。氷が解けるまで使えない=物理的にクレジットを使用不能化し、衝動買いを抑える理屈。嘘やろ?と思いましたが、きちんと記事があります。
引用元 👉 Freeze your credit cards—in ice cubes (Christian Science Monitor, 2011)
Freeze your credit cardだけで爆笑ものです。しかし理屈としては完璧。ただし、ICチップと磁気、恐らくだめになりそうですよね?実行は厳禁です。米国の振り切った考えにニヤニヤするだけにとどめておきましょう。
いや待て、クレカ凍らせるって正気か!?やり口が原始的すぎて笑ったで
ネタ枠やけど、物理で対処する究極系やな。多分磁気とかICチップとかやられるんちゃう?
まとめ|意志力ではなく、設計力で動く
- 人間の脳は楽な方に流れる設計:やる気が続かないのは性格ではなく脳の仕様。気合いや根性ではなく「頑張らなくても動ける仕組み」が必要
- フィードバックで行動を可視化:努力を見える形にすることで、自分を鼓舞し継続しやすくする
- 誘惑を物理的に遠ざける:スマホアプリを奥に沈める、クレジットカードを別の場所にしまうなど、視界から消すことで衝動を防ぐ
- 環境設計で限界効用を体感:冷蔵庫にビールを1本だけ冷やすことで、2本目への誘惑を物理的にブレーキ
- 反インセンティブで最強の動機づけ:目標未達成時に嫌いな団体へ寄付するなど、「失う痛み」を利用して行動を促進
スマートウォッチのアラートも便利だけど、結局“ポチッ”と消して「今日はいいや」で終わっていませんか?今ドキッとした人いたでしょう?見えてますよ(笑)。だって私もそうだったから。
通知は消せても、物理や環境は消せない。結局、いちばん効くのは“仕組み作り”。未来の自分は信頼できない。だから今、“未来の自分の裏切り”を先回りする仕組みを作る。そして、知識は生活で活きてこそで。行動経済学は、冷蔵庫とボールペンの中にある。


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