リンダ問題(連言錯誤)シリーズ一覧
この記事はシリーズ「リンダ問題論争(3本立て)」の1本目です。
かの有名なリンダ問題
リンダは31歳、独身で、率直な物言いをする、とても聡明な女性です。大学では哲学を専攻しました。学生時代は差別や社会正義の問題に強い関心を持ち、反核デモにも参加していました。
このリンダについて、次の2つの文のうち、どちらが起こりやすいでしょうか。
- リンダは銀行の窓口係である。
- リンダは銀行の窓口係で、フェミニスト運動に参加している。
多くの人は2を選びます。そして2は、確率の規則に反しています。「窓口係でフェミニスト運動に参加している人」は、全員が「窓口係」に含まれます。部分が全体より大きいことはありません。
この2文だけを並べた条件で、規則に反する側を選んだ人は85%でした(N=142)。
ちょい待って。俺、2番選んだで。あれ間違いなん?
せやな。確率の規則で言うと間違いや。「窓口係でフェミニスト」の人は、全員「窓口係」やろ。
…あ。ほんまや。部分集合ってやつか。
そういうこっちゃ。傘を持ってる人の中に、赤い傘を持ってる人がおる。赤い傘の人が、傘を持ってる人より多いことはない。
理屈は分かった。分かったけどな、それでもまだ2番のほうが「ありそう」に思えるんやけど。
その感覚が、この論文の主役やねん。理屈で納得しても消えへん。そこがこの研究の狙いどころや。
- リンダ問題で起きている「連言錯誤」とは何か
- 原典はリンダ問題1つの論文ではなく、10のパラダイムで検証した論文だということ
- 「確率」という語が出てこない賭けでも、予測の専門家115名でも、同じ誤りが起きること
- 提示の形を変えると誤答が65%から11%まで下がること、そしてその条件が原典に最初から書かれていたこと
連言錯誤とは何か
2つの出来事AとBについて、「AかつB」が起こる確率は、Aだけが起こる確率を超えることはありません。「AかつB」の場合は必ず「Aの場合」に含まれるからです。これを連言規則と呼びます。この規則に反して「AかつB」を「A」より起こりやすいと判断してしまうことを、連言錯誤(conjunction fallacy)と言います。
今回読んでいく原典はこちらです。
Tversky, A., & Kahneman, D. (1983). Extensional versus intuitive reasoning: The conjunction fallacy in probability judgment. Psychological Review, 90(4), 293–315.
あまりにも有名な論文ですが、タイトルの「extensional versus intuitive」が、この論文の骨格です。集合の大きさを数える推論(外延的推論)と、印象で見積もる推論(直観的推論)。この2つを分けたうえで、後者が前者を押しのける場面を集めたのがこの論文です。
本論文の結論
この論文の主張は「人は詳しい話を確率が高いと感じる」という観察ではありません。もう少し踏み込んで、こう言っています。
人は確率を尋ねられたとき、確率ではなく代表性——その記述がどれくらい典型的に見えるか——を測っている。代表性は詳細が増えると上がるが、確率は詳細が増えると下がる。だから両者は系統的にずれる。
そしてこの論文の力点は、その現象をひとつの逸話で示さなかったことにあります。人物描写、医師の診断、テニスの勝敗、実際の金銭を賭けたダイスゲーム、国際情勢の予測、人数の推定。課題の中身も、被験者も、報酬の有無も変えて、同じ形の誤りが繰り返し現れることを示しました。
原典が確かめたこと──10のパラダイム
まず全体像です。この論文に登場する主な課題を一覧にしました。
| パラダイム | 何を尋ねたか |
|---|---|
| 人物描写(BillとLinda) | 8つの記述を起こりやすさで順位づけ |
| リンダ2文版 | 2文だけを直接比較 |
| 医療診断 | 内科医が症状の組み合わせを順位づけ |
| ウィンブルドン(テニスの勝敗) | 4つの勝敗パターンの確率 |
| ダイス賭け | 2つの色の系列のどちらに賭けるか |
| Mr. F. の心臓発作 | 症状の同時発生の確率 |
| Peter のマイル走 | 走破タイムの区間確率 |
| John P. の殺人動機 | 動機の順位づけ |
| 1983年の予測シナリオ | 国際情勢・経済の予測 |
| 健康調査の人数推定 | 55歳以上・心臓発作の人数 |
以下では、この中から3つを詳しく見ます。読者にとって既知の入口であるリンダ問題、後の論争に効くダイス賭け、そして日常に最も近い専門家の予測です。
実験1:リンダ問題──85%が規則を破る
実験デザイン
人物描写を読ませ、8つの記述を起こりやすさで順位づけさせる形式です。原典での正確な記載をみてみましょう。
リンダは31歳で、独身、率直で非常に聡明だ。彼女は哲学を専攻した。学生時代、彼女は差別や社会正義の問題に深く関心をもち、反核運動にも参加していた。
- リンダは小学校の教師だ。
- リンダは書店で働き、ヨガのクラスに通っている。
- リンダはフェミニスト運動に積極的に関わっている。(F)
- リンダは精神科ソーシャルワーカーだ。
- リンダは「女性有権者連盟」の会員だ。
- リンダは銀行の窓口係だ。(T)
- リンダは保険の営業担当者だ。
- リンダは銀行の窓口係であり、フェミニスト運動に積極的に参加している。(T&F)
これら8つを確率が高い順に並べさせるわけです。
結果
まずは冒頭でも話した前提です。「T&F は T に含まれます。したがって T の確率は、T&F の確率より必ず高くなければいけません。」
そして以下が連言(窓口係かつフェミニスト)を構成要素(窓口係)より上位に置いた人の割合です。
| 統計の訓練 | 連言を上位に置いた割合 |
|---|---|
| 統計を学んだことのない群 | 89% |
| 基本概念を終えた群 | 90% |
| 大学院レベルの群 | 85% |
無関係な記述をすべて取り除き、2文だけを並べた条件でも85%(N=142)。9段階の尺度で評定させると、「窓口係」の平均が3.5、「窓口係かつフェミニスト」が5.6で、82%が後者を高く評定しました(N=119)。
押しの強い条件も試されています。「銀行の窓口係である(フェミニスト運動に参加しているかどうかは問わない)」と明示した版では誤答率は57%まで下がりましたが、消えませんでした(n=75)。正しく評定した人は16%しかいません。また、$10の賭けとして選ばせても56%(n=60)。
正解の説明と誤りの説明を並べて選ばせると、65%が「リンダはフェミニストの典型に近いから」という無効な説明を選びました(n=58)。統計コースを履修した社会科学系の大学院生64名では誤答が36%まで下がりました。
解釈
別の被験者群に「どちらがリンダの記述として代表的か」と尋ねると、85%が「窓口係かつフェミニスト」を「窓口係」より上に置きました。確率での順位と代表性での順位の相関は .98 でした。
決定的なのは次の操作です。リンダの人物描写を削り、「31歳の女性」という一文だけにすると、ほぼ全員が連言規則を守りました。誤りを生んでいるのは規則の無知ではなく、描写と記述の噛み合いの良さです。
統計の訓練についても、読み方に注意が必要です。訓練は直観そのものを変えていません。変えたのは、2文だけを並べた透明な形式のときに「ここでは規則が効く」と気づく確率でした。
実験2:ダイス賭け──「確率」という語が出てこない課題
結果
6面のダイスがあり、そのうち4面が緑(G)、2面が赤(R)です。これを20回振ります。次の3つの系列のうち、最初に現れたほうに賭けてもらいます。当たれば$25です。
- R G R R R
- G R G R R R
- G R R R R R
まず重要なポイントです。系列2は、系列1の頭に G を足しただけです。系列1を含んでいるので、系列1のほうが必ず先に現れやすい。それでも、実際の金銭を賭けた条件で65%が系列2を選びました(N=125)。仮想の賭けでも62%。系列3を選んだ人は2%でした。別の群に代表性を尋ねると、88%が系列2を「このダイスから出そうな系列」の最上位に置きました(N=50)。
興味深いのは説明の受け取り方です。この課題では、正しい説明と誤った説明を並べると、76%が正しい外延的な説明を選びました(N=88)。リンダ問題では65%が誤った説明を選んだのと、正反対です。
解釈
緑が出る割合は2/3。系列1(緑1/5)より系列2(緑1/3)のほうが、この期待割合に近い。だから『ダイスから出そう』に見える。この課題には「確率」という語も「and」という語も出てきません。尋ねているのは、どちらに金を賭けるかです。
これがなぜ重要か。連言錯誤に対する反論として最も自然なのは、「被験者は言葉を別の意味で受け取っているだけだ」というものです。「probability」を数学的な確率ではなく「もっともらしさ」の意味で読んでいる。「and」を「または」と読んでいる。実際、この線の反論は1980年代後半から繰り返し提出されました。
ダイス賭けは、その反論の射程の外にあります。多義的な語が問題文に存在しないからです。この実験は、後に来る言語的反論の一部を、先回りして押さえることになります。
実験3:予測の専門家115名─世界シナリオを考える
実験と結果
1982年7月、イスタンブールで開かれた第2回国際予測学会。参加していた職業的な予測者115名に、1983年中に起こる出来事の確率を見積もってもらいました。
一方の群には「米国とソ連が国交を断絶する」。もう一方には「ソ連がポーランドに侵攻し、その結果として米国とソ連が国交を断絶する」。
ここまで読んでいる読者の方でしたら問題ないですね。後者は前者に包括されています。しかし結果は0.14% 対 0.47%。侵攻という条件が加わったほうが、3倍以上高く見積もられました(p<.01)。
同じ設計で経済の予測も尋ねています。「米国の石油消費が30%減少する」が 0.22%、「石油価格が急騰し、その結果消費が30%減少する」が 0.36%。学生を対象にした版(N=245)では、「1983年中に北米で1,000人以上が死亡する洪水」が2.2%、「カリフォルニアの地震が洪水を引き起こし1,000人以上が死亡する」が3.1%でした。
解釈
因果的なつながりが加わると、話は理解しやすくなります。理解しやすい話は、ありそうに見えます。しかし条件が加わった分だけ、その出来事は起こりにくくなっている。
ここで確認しておきたいのは、被験者が学生ではなかったという点です。予測を職業にしている人たちが、自分の専門領域について、同じ方向に外しています。
予測が仕事の人らでもズレるんか。じゃあ俺が間違うのは当たり前やないか。
そこは開き直っていい。ただな、この論文がおもろいのは、こっからや。「どうやったら減るか」も一緒に調べてある。
提示の形を変えると誤りは減る──外延的手がかり
原典の後半に、見落とされやすい節があります。誤答率を実際に下げてみせた実験です。
課題は健康調査です。成人男性100人を調べたとして、該当する人が何人いるかを見積もらせます。「心臓発作を起こしたことがある人」と「55歳以上で、かつ心臓発作を起こしたことがある人」。提示の形を変えた4条件の結果がこちらです。
| 提示の形 | 誤答率 |
|---|---|
| パーセンテージで推定させる | 65%(N=147) |
| +「55歳以上の割合」を先に推定させる | 31%(N=159) |
| 「100人中何人」と人数で推定させる | 25%(N=117) |
| 人数形式+構成要素を先に推定させる | 11%(N=360) |
65%から11%まで下がっています。統計を履修済みのスタンフォード大上級生では28%でした(N=62)。
この結果を、次のように総括しています。「55歳以上の人」と「心臓発作を起こした人」のように、具体的なクラスの重なりを尋ねる問題では、集合の包含関係が見えやすい。しかしリンダ問題のように属性の組み合わせを尋ねる問題では、同じ手がかりが効くとは限らない。実際、リンダ問題では反論の提示も賭けも「かどうかは問わない」という明示も、効果が限られていました。この節は今後の記事でも触れていきます。
なぜ起きるのか──代表性という別の尺度
確率を尋ねられたとき、人は確率を計算していない。代表性を測っている。
連言錯誤が現れる場面は2つの型に整理されています。ひとつは、モデルから属性を判断する型(リンダの描写から職業を判断する)。もうひとつは、ある属性から別の属性を判断する型(症状から別の症状を判断する)。どちらでも同じ形の誤りが出ます。
重要なのは、代表性が詳細を足せば上がるとは限らないという点です。噛み合う詳細を足せば上がりますが、噛み合わない詳細を足せば下がります。原典の例では、「Billは音楽に退屈する」に「趣味でジャズを演奏する」を足すと、評定は構成要素より低くなりました。
つまり、この現象は「詳しいほどありそうに見える」ではありません。「話として噛み合うほどありそうに見える」です。確率は詳細を足せば必ず下がるのに、代表性は噛み合い次第で上下する。この非対称が誤りの源です。
なるほどな。詳しいから信じるんちゃなくて、話がつながってるから信じるんか。
せや。せやから対策も変わってくる。「詳しい話を疑え」やなくて、「話としてよくできてるほど、確率は下がってるかもしれん」と思うことやな。
その他、代表性の他に利用可能性も関与しています。論文冒頭に「-ingで終わる言葉と末尾から2文字目がnの言葉」の例が書かれていますが、ここは別記事に譲ります。→利用可能性ヒューリスティックハブ
この論文の限界
強い結果が並ぶ論文ですが、いくつか弱点を指摘してみましょう。
第一に、今回紹介した実験3のようなシナリオ系の実験での、被験者間比較への依存です。一方の群には構成要素だけ、他方の群には連言だけを提示しています。この設計では、そもそも比較が起きていない可能性が残ります。
第二に、誤答率の水準が提示形式に強く依存することです。同じリンダ課題でも、2文比較で85%、『かどうかは問わない』版で57%、賭け版で56%と動きます。さらに被験者を統計コース履修者に替えると36%まで下がる。『85%が間違える』は、提示形式と被験者の両方に条件づけられた数字です。
日常への接続
実務に持ち帰れる形にしておきます。
シナリオが具体的になるほど、確率は下がっている。 事業計画でもリスク評価でも、「こういう経路でこうなる」と筋道が立ったシナリオは、抽象的なリスクより起こりやすく感じられます。予測の専門家115名が外したのと同じ構造です。逆に言えば、リスクの中で最も雑に書かれた項目が、最も確率の高い項目である可能性があります。
専門知識は防波堤にならない。 冒頭の一覧に挙げた医療診断の項がそれです。詳細は原典に譲りますが、内科医103名の違反率は平均91%。見事に引っ張られています。しかも医師たちは、課題文の「AかつB」が両方を満たす意味だと正しく理解したうえで、判断が引きずられました。個別領域の知識を増やす対策は、この誤りには効かないことが示唆されます。
効くのは提示の形を変えること。 原典が実際に誤答を減らせたのは、パーセントではなく人数で数えさせ、構成要素を先に見積もらせたときでした。65%から11%です。会議で「その確率は何%か」ではなく「100件のうち何件か」と問い直し、条件をひとつずつ分けて数える。手続きとしてはこれだけです。
- 「AかつB」が「A」より起こりやすいと判断するのが連言錯誤。リンダ問題では2文だけを並べても85%が誤った
- 原典はリンダ問題1本の論文ではない。10のパラダイム。医師も、予測の専門家も、実際に金を賭けた学生も同じ方向に外した
- 原因は代表性。詳細が増えると確率は下がるが、話の噛み合いが良くなると代表性は上がる。この非対称がずれを生む
- 提示の形を人数に変え、構成要素を先に見積もらせると誤答は65%から11%まで下がる。この条件はすでに書かれていた
執筆後記
リンダ問題はあまりにも有名で、この分野を扱う以上、一度は原典に当たっておかなければならないだろうと思い記事を書いています。ただ、リンダ問題を「人間は確率が苦手だ」という話として1本で閉じてしまうのは、フェアではないのです。この実験には、ゲルト・ギーゲレンツァーという強力な批判者がいます。カーネマンとトヴェルスキーの研究プログラムそのものに、長い間正面から異を唱えてきた人です。この方の書籍も面白いので、後ほど書評でも書こうと思っています。
日本語でリンダ問題を読める記事はたくさんありますが、その反論の存在に触れているものは、私が探した範囲ではほとんどありませんでした。有名な実験ほど、紹介のされ方が固まっていきます。固まった紹介をもう1本足すことに、あまり意味を感じませんでした。
反論も一緒に置いて、読む側が自分で判断できる形にする。そうするとどうしても1本では収まらず、シリーズにするしかないというのが、今回の結論です。よって今後のシリーズまで包括して読んでいただきたいと願っています。
次回はその反論側、Hertwig & Gigerenzer (1999) を扱います。これは「連言錯誤は存在しない」という主張ではありません。そこを正確に描くのが、次の記事の仕事になります。
参考文献
Tversky, A., & Kahneman, D. (1983). Extensional versus intuitive reasoning: The conjunction fallacy in probability judgment. Psychological Review, 90(4), 293–315.
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